紫苑色の呼び声

ここは私の小さな神殿。

二十三

スーパーで買ったロールケーキを食べている。300円もする少し高いやつ。そのぶん生地は柔らかく、クリームも甘く濃厚で非常に美味しい。一口サイズに小さく切り分け、一つ一つ大事に口の中で転がす。嚥下するごとに幸福感で満たされ、充足された気分になる。…

稠密

半年ほど前からか、今日は調子悪いなという日が突然やってくるようになった。気力がない。全ての感情が磨りガラスの向こうにあるようにぼやけている。風邪をひいたときの怠さのような症状。すぐに原因はわかった。睡眠不足だった。何らかの理由で6時間未満の…

十二

リビング住人へ。見ないで。お願い。 痛い。痛い。痛い。痛い。頭が痛い。腹が痛い。心が痛い。そんな感覚がするがどこも痛まない。でもとにかく苦しい。痛い。場所がない。痛い。リビングの住人から排他的な扱いを受けているような感覚がある。自分でもわか…

2

夜が好き。みんな夜には家に帰るから。家以外のものはみんな空席になる。独り占めだ。人が居ないとどこも寂しくなる。廃墟の気分の良さは人が居ないことによる独占や人間を厭わなくて済む気楽さから来るものじゃなくて、人間を懐かしむ心から生まれるものだ…

1

経験が欲しい。今まで体験したことのない物事に触れるのが楽しい。行きつけのラーメン屋で初めて唐揚げ定食を食べた。映画館でカードを作った。コンビニでスムージーを買って飲んだ。体験自体も楽しいし、自分の好みや考えがより知れて楽しいし、今後の選択…

紫苑色の呼び声

最近の藍鼠は狂っている、と藍鼠の一人が呟いている。悲観でも自嘲でもなんでもなく、ただ狂っているという事実の確認だ。狂う、では意味が広いので言いかえる。タガが外れている、理がない、意味がない、そんな言葉を吐くようになりはじめた。 明らかな原因…