紫苑色の呼び声

ここは私の小さな神殿。

稠密

 半年ほど前からか、今日は調子悪いなという日が突然やってくるようになった。気力がない。全ての感情が磨りガラスの向こうにあるようにぼやけている。風邪をひいたときの怠さのような症状。すぐに原因はわかった。睡眠不足だった。何らかの理由で6時間未満の睡眠を取るとこの状態になるらしい。それがわかれば対処は楽で、ちゃんと睡眠を取れば問題はなく、仮に調子が悪くなっても寝直せばすぐに治った。でも、またいまその症状が出ている。睡眠リズムが砕けたので寝なおすこともできない。自分の睡眠を意識的にコントロールできない人類の身体はバカだと思う。

 昨日は徹夜で奨学金の書類を書いていた。提出日が昨日だったから。これは後回しにしたとかではなくそもそも提出期間が異様に短いから僕の責ではない。そもそも書く気のない文章を錬成するのが苦手なので時間がかかり、わざわざ大学まで行って書類を提出して家に帰ったら15時だった。その前に起きたのが14時だったから24時間以上起床してたことになる。36万円のために眠気をおしてだるい身体に鞭を打ち書類を出しに行った結果、睡眠が乱れて「症状」が出た。15時間ほど何も食べてなかったので帰り次第ご飯を食べたけど、食べきれずに捨ててしまった。盛ったご飯は残さないようにしようと決めて風邪の時以外は守り続けてきたのに。祖母が出してきた明らかに3人前くらいあるご飯も時間をかけて食べたのに。泣いた。涙は出なかったけど。悲しかった。

 「症状」は明らかだったので眠った。だけど人間の身体はバカなので6時間で起きてしまった。それ以来4時間ほど眠れていない。本当に風邪のような症状で、気力がなく全てのコンテンツが身体に作用する寸前に軌道を変えすり抜けていく。身体と外部との間に透明な幕が張っているかのように。全て味がしない。眠るだけが残された選択なのに眠れない。慢性的な苦しさ。たぶん、典型的なうつの症状なんだろうと思う。眠れないし何をしても楽しくないのでせめて気を紛らわせるために楽しくもないのに文章を書いています。

 ところで、感覚としてはこの「症状」は睡眠不足の時に発症するというよりも、「症状」は常に存在していて、睡眠が十分な時は気力を使って封じていられるという感じがする。きのう本ブログの方で呪いについて話したが、まさにその呪いによるものなのだろう。つまり表面化していないだけでうつはずっと奥底に潜んでいるのだ。そういえば1年ほど前に精神が安定しだしたときも「気の持ちよう」で何とか症状を抑えていたのだった。

 僕がうつ病かどうかはどうでもいいのだけど、睡眠不足といういつでも起こりうる事象から引火して無気力が発症するのならそれはとても危なげなことだと思う。今回は布団でうにゃうにゃするだけにとどまったけれど、いつかこの性質のせいで終わりを迎えてしまいそうで怖い。

 ある日何故か眠れなくて、次の日は絶対休めない大事な仕事があるから徹夜で無理して会社に行って、その仕事はなんとかこなしたけれどそれから三日寝込んで別の仕事をすっぽかしてクビになり、お金も自信もなくして、かなしいことになるんだろうな。コンボは起こる確率は低いけれどいつか起こる。かなしいことは起こしたくないので、せめて怒られの発生しなさそうな職場を探すのがいいのだろう。アルバイトくらいしか思いつかないけど。

 自分の体の方を治すのはたぶん無理です。どんな操作を行うとどんな結果が返ってくるかはある程度分かるけど、内部の構造は完全にブラックボックスになっていてもう何もいじれない。というか内部を見渡すために明かりを灯すと見てはいけないものを見てしまって精神がバグるような気がする。そのトラップをまず解除しなきゃいけなくて、でもそれにもまた別の要素が絡んでいて安易に解除すると別の機能が死ぬ。完全にこんがらがってしまっている。だから僕は呪いの解除を諦めて、今日も呪いをさらに重ねていくのだ。いつか呪いで雁字搦めになって破滅するのかな。その前に重なった呪いが綺麗に調和してそれ以上呪いを重ねなくてもいい安定状態になることを祈るしかない。